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東京高等裁判所 昭和56年(ラ)863号 決定

抗告人

今井工業株式会社

右代表者

今井義仁

右代理人

東雲光範

債権者株式会社住宅ローンサービス、債務者兼所有者高橋利夫間の東京地方裁判所八王子支部昭和五五年(ケ)第四二一号競売事件について、同裁判所が昭和五六年九月一六日にした売却不許可決定に対し、抗告人から適法な執行抗告の申立があつたので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

原決定を取り消す。

本件を東京地方裁判所八王子支部に差し戻す。

理由

(本件抗告の理由)

別紙抗告理由書記載のとおりである。

(当裁判所の判断)

記録によると、本件不動産競売事件について、原裁判所が原決定添附物件目録記載1から3までの各不動産を期日入札の方法により一括売却することとして、昭和五六年五月一日に最低売却価額(一括合計額)二四一四万一〇〇〇円と定め、同年八月六日に入札期日及び売却決定期日をそれぞれ昭和五六年九月一一日午前一〇時及び昭和五六年九月一六日午後一時と定め(売却実施命令)、右売却実施命令にもとづいて、裁判所書記官小林勲が同年八月一一日に右の入札期日、売却決定期日及び最低売却価額のほか、買受け申出の保証の額を四八二万八〇〇〇円と掲示した期日入札の公告をし、執行官志賀清和が同年九月一一日に本件期日入札を実施したこと。本件入札期日において、抗告人の代理人藤本良助が入札書三番札をもつて入札価額二四一九万三〇〇〇円のほか、保証の額を本件公告の掲示のとおり四八二万八〇〇〇円とした入札をし、かつ、右入札書を差し出す際に買受けの申出の保証金四八二万八〇〇〇円を提供し、これに対し、右執行官が適法な入札があつたとして、右入札人たる抗告人を最高価買受申出人と定めて入札期日の終了を宣したこと。かように認めることができる。

期日入札における買受けの申出の保証の額は、執行裁判所が特別に定める場合(民事執行規則三九条二項)を除いて、最低売却価額の十分の二とする定めである(同三九条一項)。本件においては、執行裁判所が最低売却価額を定めるとともに、保証の額につき右三九条二項の特別の定めをしないことを明らかにして、特に保証の額四八二万八二〇〇円であることをその決定書欄中に注記してあることでもあり(このことは記録上明らかである。)、裁判所書記官は本件期日入札の公告において買受け申出の保証の額を四八二万八二〇〇円と掲示すべきであるにもかかわらず、前記裁判所書記官が保証の額を四八二万八〇〇〇円と掲示したことは、金額の百単位を二とすべきところを零と書き誤つたことによる明白な誤謬であつて、本件期日入札の公告に瑕疵があるものというべきである。また、本件入札人である抗告人が入札の実施の際に買受け申出の保証金四八二万八〇〇〇円を提供したことは、本件期日入札の公告における保証の額の掲示に忠実に従つたまでのものとはいえ、本件保証の提供に欠缺があるというのほかはない。そして、右のような瑕疵及び欠缺があることにより入札期日の終了をもつてする本件期日入札の実施の手続に瑕疵があるというべきである。

しかしながら、本件保証の提供における欠缺は、本件入札人である抗告人に対してさらに保証金二〇〇円を提供する機会を与えることによつて容易に補正することができるものであり、したがつて、右の欠缺の補正によつて本件期日入札の実施上の瑕疵もまたたやすく治癒されるものといわなければならない。

以上によれば、本件期日入札における公告の瑕疵及び保証提供の欠缺は、民事執行法七〇条七号にいう売却の手続における重大な誤りに当らないものと解するのを相当とする。本件抗告理由についてみるに、原決定には所論の違法があり、論旨は理由がある。したがつて、原決定は取り消しを免れず、更に保証提供の追完によつて右の欠缺を補正させるため、本件を原審に差し戻すこととする。

よつて、主文のとおり決定する。

(中川幹郎 真榮田哲 木下重康)

〔抗告理由書〕

抗告人は、上記競売事件における昭和五六年九月一一日の入札期日に、最高価買受申出人となつたものであるが、原審は、上記期日入札の公告に際し、買受申出の保証の額を四、八二八、二〇〇円であるところを誤つて四、八二八、〇〇〇円と二〇〇円少なく記載し、公告した。抗告人は、上記の公告に記載されたところに従い保証額を現金にて預託したうえ買受を申出、最高価買受人となつたものである。しかるに原審は、上記の買受申出に際して抗告人が預託した保証金が二〇〇円少ないことを理由として、抗告人に対する売却を不許可とした。

ところで、民事執行法第七一条第七項では「売却の手続に重大な誤りがあること。」が売却不許可決定をなすためには必要であるとしているが、本件のように公告に記載されたとおりに保証金を預託した抗告人の買受申出の保証の額が二〇〇円少ないとしても、売却の手続に重大な誤りがあつたとはいえない。

よつて、上記の売却不許可という原審の決定は違法である。

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